友だちになってはいけない『密話』石川 宏千花 講談社

メアリーは、幸せだったと思います。
メアリーを見つけてくれたマミヤくん。
誰も見つけてくれなかったなら、いないのと同じ。
見つけてはじめて、そこに存在する事ができる。
マミヤくんは、名前もつけてくれたのですから。
大好きなマミヤくんのために…メアリーは行動をおこすのでした。
石川宏千花作『密話』の感想です。良かったらぜひ。

作者の石川宏千花氏は、今かなり気になっている作家のひとりです。
この本は、雑誌日本児童文学に連載した作品を、加筆修正したもの。
連載時のタイトルは『わたしと友だちになってはいけない』
なんとも悲しいタイトルですよね。
日本児童文学は購読しているのですが、あまり記憶に残ってない(苦笑)

メアリーのお家は、暗くて、不潔で、メアリー以外のものは、長くは存在できない場所でした。下水の中…
身体に影響を及ぼす、有毒のガスでも流れているのかもしれません。
メアリーは、長く長く生きていました。
気づいた時には下水に浮かんでいて、泥水と皮膚の区別もつかない状態でした。
メアリーは自分の姿が化け物のようだとは知らず
人間の前にその姿をさらしてしまい、ひどいめにあった過去もありました。

自分が、人とは全く違う、化け物のような姿をしていると知った後も
1度見てしまった明るい世界を見る事を、あきらめる事はできませんでした。
それで、人に見つからないように、行動するようになっていったのです。

誰も見ないから、見つけようとはしないから、
メアリーは、そこに存在しないものでした。
誰かに不審がられる事なく、町を歩いたり、小学校に行ったり、
誰かの家に忍び込む事もできました。

メアリーは、人が好きでした。
特に、小学六年生の子どもたちが。
自分が、小学六年生の女の子だったら~と妄想することもありました。

メアリーは、小学校の授業中など、生徒がいない時間帯に歩き回っていたので
誰かに見とがめられる事は、ありませんでした。
でも、マミヤくんは転校生で、小学校に挨拶に来た日、
誰もいないはずの時間に、メアリーを見つけたのでした。

メアリーは、人の言葉がわかりました。
メアリーを見つけたマミヤくんが「ここ、目かな?」とつぶやくと、こく。
話をすることはできないけど、こくこくうなずいて
意思疎通する事もできました。

言葉がわかる不思議なもの。
ふたつ、目のようなものもあるし、うなずくこともできる。
マミヤくんは「友だちになろう」そう…メアリーに言ったのでした。

マミヤくんは、とって綺麗な男の子でした。
メアリーのはじめての友だち。
マミヤくんは、嫌いなもの、意地悪する友だちのことを、話してくれたから、
メアリーは、マミヤくんの嫌いを排除してあげることに。
大嫌いなセロリが入った給食のスープに、ネズミを入れて食べられなくしたり。
マミヤくんに意地悪する同級生にケガをさせたり。

マミヤくんは、メアリーがしたことだと気づき、喜び、
もっともっと~メアリーにお願いをするようになっていきました。

担任の先生を目の前から消してほしいと、マミヤくんはお願いします。
不思議に思いながらも、マミヤくんのお願いを聞いてしまうメアリー。
先生が飼っていた可愛いネコを、おうちに連れてくると、
ねこたちは、少しずつ弱って、やがて死んでしまいました。
先生のお母さんに、こっそり危害を加えたり。
やがて。先生の顔から笑顔が消え、学校をやめる事になりました。

マミヤくんのお願いは続きました。
誰からも好かれているスナミさんに苦しみを与え、目の前から消してほしい。
なぜスナミさんを?…と疑問に思っても
メアリーには、マミヤくんのお願いを断るという選択肢はなく、
スナミさんのことを追いつめていくのでした。

スナミさんは、カセくんに相談します。
カセくんはどんな時にもカセくんで、人によって態度が変わる事はない
心根のまっすぐな男の子でした。

カセくんとスナミさん。
ふたりが並んでいる姿は、物語の中のことのようで、ほんとうに素敵でした。
可愛いスナミさんは、メアリーの理想の女の子。
カセくんを、もっと輝かせることができる女の子です。
マミヤくも、スナミさんに好意を持っていたはずなのに。。。

スナミさんのこと、先生のこと、けがをした友だちの事件のことも
マミヤくんがかかわっている?
カセくんは、その考えをマミヤくんにぶつけ、
スナミさんへの嫌がらせにも、かかわっているだろう・・・と突きつけるのでした。

最初は、カセくんと仲良くする素振りだったマミヤくんでしたが
「カセも、もうイイや」
カセが話しかけないようにして…と、メアリーにお願いしたのでした。

ずっとマミヤくんのお願いを聞いてきました。いくつもくつも。
でも、このお願いは聞きたくない。
メアリーは、すごくすごく傷つき、はじめて首を横にふったのでした。

そんなメアリーにマミヤくんは「もうたのまない」言い捨てて、行ってしまいます。
メアリーは、たったひとりの友だちをなくしてしまったのでした。

メアリーは、友だちのために…とたくさんの人を傷つけてしまいました。
笑顔が見たかったから、また会いたかったから。
そんなメアリーのことを、わたしには、責められません。
なにが悪いことなのか…メアリーに教えてくれる人はいなかったのですから。

でも、メアリーは気づきます。
自分がしてはいけない事をしてしまったことに。
大好きなマミヤくんだけど、マミヤくんが間違っている…と言う事に。

メアリーは、マミヤくんの部屋に忍び込み、日記を見つけます。
嫌いなヤツは片づけてくれる。消してくれる。
マミヤくんの「もうイイや、消えちゃえ」という悪意がカタチになっていく様が
嬉々として、書き綴られていました。

マミヤくんの心の空洞、闇は、どんどん大きくなっていきました。
友情とか、思いやりのような、やさしい気持ちは、
マミヤくんの心の中では、長く生きられないのです。死んでしまうのです。

友だちになってはいけなかった。
メアリーは、そのことに気づき、悲しくて悲しくて。
泥水の匂いの涙を流すメアリーを、慰めてくれる人は誰もいませんでした。

でも、マミヤくんがもっとひどい男の子にならないように食い止めなければ
そう…思うのでした。
そして、メアリーは、人の姿に変わります。マミヤくんと話すために。

スナミさんに似た、可愛らしい姿に変ったメアリーは、マミヤくんをお家につれてきます。
生き物が生き続けられないメアリーのお家は、マミヤくんの心の空洞とおんなじ。
こんな劣悪な場所に住む、得体のしれない存在と友だちになってはいけなかった。
メアリーは、マミヤくんにうったえます。
人でいる時間は限られていて、メアリーの体ははどんどん崩れていきました。
マミヤくんの心の空洞に、いっぱい恐怖を与えよう。
そうすれば、マミヤくんは変われるはず・・・
でも、メアリーには、変わっていくマミヤくんを見る事ができないのです。
ドロドロにとけて、消えなければならないから。

光がふりそそく地上には、カセくんがいる。
恐怖でいっぱいになったマミヤくんを、カセくんは救ってくれる。
メアリーは、そう信じていました。

マミヤくんは、メアリーにたくさんのプレゼントをくれました。
その中で1番のお気に入りは「メアリー」という名前でした。
マミヤくんは、目がある、不思議なモノを「目あり」と呼んだだけでしたけど。

友だちってなんだろう。
カセくんを、さらにカッコいい男の子にできるスナミさんのように、
メアリーは、マミヤくんを素敵な男の子にしてあげたかったのです。

切磋琢磨しあえる、お互いをより輝かせる事ができる間柄。
それは、とても素晴らしい関係だと思います。
メアリーが友だちになったのが、カセくんだったら? スナミさんだったら?

自分がなにものであるか知る事ができた。
はじめての友だちの心の空洞を、うめることもできた。
そして、ひどい事をした償い…メアリーはもとの泥に戻っていったのでした。

マミヤくんは変われるでしょうか。それはマミヤくん次第…
人は、そう自覚した日から、なりたい自分になっていける生き物だから。

劣悪な環境で生まれたとしても、やさしい心を持ち続けられる。
誰かのために…と思うことができる。
きれいなものに憧れて、前に進める。
メアリーは教えてくれました。
次に生まれる時には、お日様の下…良い匂いのするなにかであってほしい。
そう願わずにはいられないのです。

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