さわやかな風が吹き込んだ『幸子の庭』本多 明

庭。幸せや思い出、自分だけの誰にも触れられたくない気持ちを隠したり、
宝物を誰かと共有して、何倍にも増やし、育てる場所でもある。
幸子の庭には、どんな思いがつまってるんだろ。隠されてるんだろ?
曾おじいちゃんが、曾おばあちゃんと暮らすために作れらた家と庭。
長い年月、ひとを、暮らしを、悲しみも幸せも見てきた庭。
伸び放題の木は、庭を、幸子の心を淀ませてしまいもした。。。
日本児童文学者協会 第5回 長編児童文学新人賞を受賞なさった本作が
本多氏のデビュー作です。『幸子の庭』本多 明 小峰書店 2007

今年96歳になる、幸子の曾おばあちゃんが、幸子の家に遊びに来る。
最後の旅になるかもしれない・・・
この家は、曾おばあちゃんがお嫁に来た家。
曾おじいちゃんが、丹精込めた庭が、今では、手入れも剪定もされぬ枝が
庭を覆いつくし、空を隠し、お化け屋敷のよう。。。
こんな庭に、曾おばあちゃんをお迎えする事はできないとあせるお母さん。
でも。急な話で、剪定を引き受けてくれる造園業者さんがいない。

広告を見て、幸子が心ひかれ、電話をかけた小橋造園さんが、仕事を引き受けてくれる事になります。
中心になって仕事をするのは、庭師の田坂さん。
彼の手で、刈られていく木。すっきりとどんどん表情を変えていく木。
生まれ変わっていく庭。
田坂さんは、ほんものの職人さん。意味もなく刈っているのではなく
次の年に、新しい芽がでやすいよう、おおきくきれいな花をつけるように
考えて、木と対話しながら、刈っているのでした。

小学6年生の幸子は、5年生まで仲良しだった友だちが転校してから
友だちの輪に入れずにいました。
中学受験する子、しない子…塾見学に誘われて、入塾を断ったことから
いじめの対象にされるようになってしまいました。
そして。不登校になってしまう。

見てるくせに、幸子が近づこうとすると急に無視する。
無視…されたよなぁ。だから、わかるよ。気づくと友だちの心の色が変わってる。
水槽がよどんで、いやなにおいを発するようになるみたいに。

手入れされなくなった庭も、新しい風が吹き込まず、よどんでいました。
庭は幸子の心そのもの。
風が吹き込まない場所は、空気がよごれ、心まで蝕むのでしょうね。

幸子の庭を、ずっと前から知っているような田坂さん。
ずっと家に引きこもっていて、知らない人とは話などできなかった幸子ですが
田坂さんは違っていました。
子どもの幸子の話にも、しっかり耳を傾け、きちんと答えてくれる。
木のこと。木によって、違う刃物を使うこと。この庭には白い花が多いこと。
鋏やノコギリなど、刃物が大好きで、その話になると止まらないんですって。

田坂さんが枝を切る音は、ほんとうにいい音です。ぱちん、ぱちん。
木の命が目覚めるような音。
庭の木を剪定し、刈っていく。いらない枝葉も刈られていきますが
新しい命を目覚めさせ、美しい花を咲かせるためにも、切っていく。
大きななにかのために、それよりは小さいなにかを切る。
人も同じですよね。ほんとうに大切な何かのためには、切り捨てていかなければならないものもある。
歩いていくためには、失い続けなければならないんですよね。

幸子の話と平行して、田坂さんが庭師を目指すに至り、
小橋造園で仕事をするようになった話も語られます。
鋏や庭師という仕事について。専門的な話も出てきてます。

本多氏の文章は、ものすごくしっかりしているものの、硬い…というか。
最初のとっつきが悪いような気がしました。
それと。ふと変わる視点。作者は意識して変えてるのかもしれないけど
読者には負担になると思いました。
幸子と庭の再生の物語。庭が生まれかわっていく。同時に幸子の心も・・・
すごく好きな雰囲気な話なので、ちょっと残念な気もしました。
これは、わたしの読書力のなさのせいかもしれません。

剪定は2日間、行われます。
2日めには、幸子は、田坂さんのためにカレーを作ると言い出すほどに
この職人さんに魅せられ、心をひらいていました。
幸子の質問に、丁寧にこたえてくれる田坂さん。
剪定の最終段階で、印象に残ったシーンがありました。
生垣を鋏で刈る。夕闇が迫るまでに残された時間はわずかでした。
田坂さんは、幸子に聞くのです。
「明日お見えになるお婆ちゃんの目の高さは?」と。
幸子は、絶対に間違ってはいけないことを聞かれたと思う…
誰かに必要とされている、真剣な問いかけをしてくれる人の存在の大切さ。

曾おばあちゃんの最後になるだろう旅。
生まれ変わった庭、お婆ちゃんにとっては、嫁いてきたばかりの頃のままの
風が吹きぬける庭。
庭が生まれ変わると同時に、元気を取り戻した幸子。
自分の部屋から庭を眺めて、ここ(部屋)に閉じこもっていたくない
そう思うようになったのでした。
そして。したいと思うことをたくさん思いつき、たくさんすぎて困るのです!

連休明け。久しぶりの登校。学校へ行きたいと思った。
教室から、校庭を、校庭のイチョウを見たい。

心は風通しをよくしておかなければいけない。。。
よどまないように。
読み終わった時に、さわやかな風が、心を吹き抜けたような気がしました。
なんだか…自分も一歩、前に進めたような。

本作品は、第41回日本児童文学者協会新人賞に輝きました。
本多氏の次作を楽しみにしたいと思います。

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