人間は迷い、そして……選ぶ。『チポロ』『ヤイレスーホ』 菅野雪虫 講談社

ずっと下を向いていてはいけない。
心がからだが、傷つき、しんどくて、一歩たりとも歩けなくても。
涙で、例えば流れる血で、視界が不鮮明であったとしても、前を、空を見上げてみよう。そこには、なにかがあるかもしれないから。
神も、奇跡も、道も、見つけようとしない者には見つけることはできない、決して。
菅野雪虫作『チポロ』と、続編『ヤイレスーホ』を読みました。
久しぶりの菅野作品、久しぶりすぎる読書日記になります。

神は、自分に似せて、人をつくりました。
だから、小さな存在である人を気にかけ、恩恵を与え続けてくれています。
一方、ひとは、そのことを当たり前だととらえ、神からの贈物であることも忘れ、他よりも多くを得ようと争いをおこすようになっていきました。
神の住まいを汚し、命を食らうことへの感謝も忘れた人間たち。
弱い人間たちに、力を合わせれば、乗り越えられるとヒントを与えても、そうはしない、おごった人間たちにあいそをつかし、神々は、次々、神の国への帰っていきました。
神のいなくなった地上には、魔物がはびこり始めます。
チポロが暮らすススハム・コタンは、魔物に狙われた村でした。

オキクルミ。その昔は、人が好きで、人の近くで暮らしていましたが、人に腹を立て、神の国へ帰ってしまいました。
でも、オキクルミの妹神は、地上に残りました。
貧しい人々に食べものを与え続ける妹を、オキクルミは、神の国から見守っていました。
ある日、けしからぬ男が、女神を見てやろうとします。兄は、その男に雷を落とし、一瞬で焼き殺してしまいました。
神様らしい神様だなぁ~と思ってしまいました。

燃えさかる家から、男の友人が、男の妹や弟を救い出すのですが、彼は、半身大火傷を負いました。
男は迷わなかったのでしょうか。友人の家族を救うためとはいえ、燃えさかる炎の中に飛び込む事を。
迷ったと思います。迷って、迷って、選びました。彼が、やりたいと思う方を、炎から逃げるのではなく、炎の中から友人の家族を救う方を。

女神は、その男とともにあることを選び、男の子も生まれました。
女神は神の力をほとんど失い、柳の木となり、男も、男の子が幼い時に、狩の時の傷がもとで亡くなりました。
男の子の名はチポロ。

チポロは、栄養不足のせいもあり、やせた、ひ弱な男の子でした。
そんなチポロが射た矢に、鶴の神が当たってくれます。
自らの肉を与えるために。
自然に、動物に、神が宿る。ありがたくその恩恵を受け取り、魂を天に返すことをほとんどの人は忘れてしまいましたが、チポロと祖母は、違いました。
だからこそ。鶴の神は、チポロの矢の前に躍り出たのでしょうか。

チポロを思いやる優しい幼なじみのイレシュが、魔物にさらわれます。
チポロは、3年という年月をかけて、自分自身を鍛え上げ、イレシュの消息をつかみ、来たの最果ての港へと旅立ちます。
チポロには、イレシュがいない村に自分の居場所はないと思っていましたから、行く手にどんなものが待ち受けていようとも、その場所にイレシュがいなくても、動かないという選択肢はありませんでした。
イレシュが魔女になってしまっていたとしても。

道連れとなるミソサザイの神が、とてもユニークです。
ミソサザイの神にチポロのことをたのむツルの神も、チポロとヤイレスーホにも出てきますが、弱き人、それでも、上を向く人の獲物となり、肉を食べさせるという印象的かつ、主人公に寄り添う神様です。

イレシュをさらったのは蛇のヤイレスーホでした。
美しい青年に化けられるヤイレスーホは、イレシュに、さわったものを瞬時に凍らせてしまうという呪いをかけます。イレシュは、人にさわれなくなり、氷の魔女と呼ばれるようになります。

チポロは強いです。
呪われていようともイレシュがいいといいました。
負ける事を恐れない。生まれてから負け続けているんだからと。人は負けたくないと思う生き物で。負けないためには逃げてもいいと思います。
でも。チポロは、勝ち目のないと思われるような相手にも、負ける覚悟で、立ち向かう。
立ち向かわなければ、大切なものを取り戻せないとして、わたしは立ち向かえるだろうか。

イレシュは、チポロと間違われてさらわれたのでした。イレシュにとって、守るべき対象だったチポロが、たくましくなって、助けにきてくれるとは、思ってもみなかった。

荒ぶる魔物の魂も天に送り、チポロは、イレシュを救い出します。
呪いもとかれる。
そして、ふたりは、ススハムコタンへの帰途につくのでした。

先に『ヤイレスーホ』を読んでしまったせいもあるかもしれませんが、『チポロ』は、めでたし、めでたしな終わりではありません。コタンにたどり着いたところまで、描かれていませんからね。
ヤイレスーホで語られますが、魔物と3年暮らしたイレシュを、村人たちは、受け入れられなかったようです。
弟マヒトの心をこわしてしまったことを、イレシュ自身も気に病んでいたせいもあると思いますが、村の外で、兄弟ふたりで暮らすことになりました。

続編の主人公は、ヤイレスーホ?
いや、氷の魔女になりたいと願ったランペシカの物語だと思います。
ひとは強欲です。
仲間を陥れて、全てを奪うこともいとわない輩に、ランペシカの父は命を奪われ、財産すべても奪われます。
その復讐のために、魔女になりたいと願う少女は悲しいです。

ランペシカは、母から魔法の石を受け継いでいました。
自分ではなく、大切な誰かの希望を叶えると言う石でした。
1度使われた石は、持ち主が次の持ち主を選び、渡されます。

ヤイレスーホは、癒えない傷を心におったイレシュに会わせることで、ランペシカに魔女となることを思いとどまらせようとします。
でも、ランペシカは、その呪いの力を手に入れてしまうのです。
ランペシカは、憎むものを傷つけようとし、その代償をおう。
手を失うのです。
でも、ランペシカは、とても大切なものを手に入れるのです。ランペシカのことを思う家族のような存在、ともに暮らす人を。

ヤイレスーホは、人の姿であり続けたいと思っていました。
なぜ人になりたかったのか。
人は迷うから。人のように迷ってみたかったというけれど、ヤイレスーホは、どこか魔物らしくありません。神の僕だったから?人間と暮らしたことがあるから?
ランペシカは、ヤイレスーホの願いを叶えてあげようとします。
次の石の持ち主も、ヤイレスーホにと。

ヤイレスーホは、土壇場で、自分の願いを変えます。
自分にかかわった全ての人から、自分に関する記憶を消してくれと。
ヤイレスーホの願いは叶い、イレシュから、弟マヒトからも、ヤイレスーホに関する記憶だけがきれいに消えます。
でも、チポロとランペシカから、ヤイレスーホの記憶は消えません。
どうして?と気になる方は、この本を読んでみてください。

神は迷いません。
人は迷う。
でも、それは、最善を見つけるためではありません。
自分がしたいことはなにか、進みたい道はどちらか。それを知り、つかみ取るために迷うのだと。

ヤイレスーホに、また出会いたい。
チポロの物語も、また読みたいと思いました。
やはり、ミーハーなわたしは、カッコいい男性が好きなようです。
自分の意思を持つ人に憧れます。

選びとりたいものがわかっているなら、しっかり迷って、つかみ取ればいい。
でも、自分の願いをみうしなったら、チポロとヤイレスーホの物語を読んでみてはいかがでしょうか。

生き続ける限り、人は選択を迫られらます。迷うことは、生きる事。自分の望む道を選び取り続けながら、時に立ち止まり、後悔する事があっても、ゆっくり進んでいきたい。
そして、また……菅野雪虫作品に出会いたいです。

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