朝井リョウが、そして、わたしが感じた違和感『世界地図の下書き』

ずっと一緒にいてくれる?
実現不可能な問いかけであり、願い。
答えがほしかったわけじゃないのかもしれない。
逃げたっていい。むしろ、逃げろ。
『世界地図の下書き』の表紙は、綺麗で、あまりにも悲しかったので
朝井リョウが感じた違和感に寄り添ってみました。

物語の主人公、太輔は、交通事故で両親を1度に亡くし
子どものいない伯父・伯母夫婦にひきとられますが、うまくいかず
作品の舞台となる児童養護施設「青葉おひさまの家」にやってきます。
小学3年生の時でした。

青葉おひさまの家で、太輔は、同級生の淳也、淳也の2つ下の妹、麻利、
太輔の1つ下の美保子、6歳年上の佐緒里の5人と同室になります。
バザーで得た収益をもとに、毎年、夏に旅行をしており
この年、バザーに出店するキルト製品を、児童たちは作ることになります。

キルト。太輔の母は、講師をするほどの腕前で、
給食袋などの太輔の持ち物は、母の手作りキルトでした。

青葉おひさまの家がある町には、蛍祭りというお祭りがあって
願いをこめて、ランタンを飛ばす。
青葉の家の子どもたちは、毎年の旅行とお祭りがかさなるため
今年も、お祭りには行かない……と言うのです。

バザー当日。出来上がったキルトは、何者かによってズタズタにされ
バザーはできなくなってしまいます。
太輔の仕業でした。

キルトは母だけが作るものであるし、
キルトだと気づかれないようにしなければいけない。
それに、旅行に行ってしまっては、お祭りに行けない。。。
伯父の家に引き取られた時に、母のキルトを捨てられてしまったこと
自分が良い子でなかったから、家族でお祭りに行けなかったとの思い込み。
そんな悲しいトラウマから、やってしまったことでした。

みんなでお祭りに行こうと約束したものの、結局、行く事はできず
そして、その年を最後に、蛍祭りは行われなくなってしまったのでした。

このキルトをズタズタにしてしまった太輔の話は、すごく好きです。
自分がやってしまったことを、佐緒里に告白してしまう太輔。
同室の5人での家族ごっこ。
ひとりぼっちになってしまった太輔に、味方ができた瞬間でした。

この最初の章だけが、太輔がおひさまの家にやってきた夏の話で
それ以降は、3年後、太輔と淳也が6年生、佐緒里が高3の年のお話です。

おひさまの家にいられるのは、高校3年生まで。
佐緒里は、バイトも勉強もがんばって、東京の大学への進学を夢見ています。
太輔は、そんな佐緒里の勉強道具をかくしてしまう。
いなくなってほしくない。そんな気持ちからでした。

繊細でやさしい妹思いの淳也は、クラスに味方がいません。
明るく快活な妹、麻利も、学級委員などの面倒な仕事を押し付けられていました。
麻利には、大好きな友だちがいました。
その子のためなら、なんでもしてあげたいと思うほど大好きな。
麻利は、誕生日プレゼントにもらったばかりの靴を、その子にあげてしまう。
その背後には、いじめグループの存在がありました。

麻利が靴を取り上げられた同じ日、
太輔は、3年前に一緒にくらしていた伯母の家を訪問します。
言う事を聞かない、暗いと言って、太輔を叩いた伯父はいませんでした。
伯父が出て行き、伯母は「ずっと一緒にいてくれる」誰かをなくし
その代りを、太輔に求めたのでした。

引き取られた時、伯母を「お母さん」と呼べなかった太輔。
誰の代わりも、誰もできない。
「伯父さんの代わりは、自分にはできない」と、伯母に告げるのでした。

その同じ日曜に、美保子にも、そして、佐緒里にも大きなことが。
母が再婚し、新しい父ができた美保子。
でも、母に反発して、新しい父が大切にしていたものを台無しにしてしまう。
家族を無くしてしまった……と落ち込みます。

佐緒里は、東京の大学進学の夢が閉ざされます。
高校を卒業したら、病気の弟のめんどうを見てくれている親戚の印刷会社で、
働かなくてはならなくなってしまうのです。
佐緒里の両親は離婚しただけ……のはずなのに、
どちらの親の影も見えないことに、首をかしげてしまいましたが。

太輔が伯母さんの家から逃げ帰ると、同室のメンバーが揃いも揃って
苦境に立たされています。ちょっとやりすぎ感ありますが
太輔は痛感します。
『ここ(おひさまの家)に帰ってくれば、(自分のいる)その宇宙に、
誰かが入ってきてくれると思った。
勘違いをしていた。
みんな、それぞれの宇宙の中にひとりきりなんだ』と。

子どもには、自分にはどうしようもない事がたくさんあります。
おとなも同じかもしれません。
それぞれの宇宙の中でひとりきりでも、宇宙同士が接岸する事はできる。
ずっと一緒にはいられないかもしれないけれど、
何度でも、出会うことはできるのです。

大学進学の夢を奪われた佐緒里のために
太輔たちは、願いとばし(ランタンを飛ばし)を復活させようとします。
6年生を送る会のプレゼントにできないか?
飛んでいく願いを、佐緒里に見せたい。
4人は、がんばります。

麻利が、いじめの首謀者に対抗するシーンには、涙が出ました。
願い飛ばしのランタンを在校生分、自分が作る。
作れたら、麻利と友だちの事を冷やかしたりせず、放っておいてくれ……と。
いじめっこは承諾します。

太輔たち4人は、在校生分のランタンを作りあげます。
そのやり方は間違っていました。
図工室の備品(運動会に使った材料の残り)を盗み出して、使ったり
先生のライターのオイルを盗んだり。
消灯後も、こっそり作業と続けたり。

その4人のたくらみは、先生の知るところとなります。
ランタンは、盗んだ材料で作られたものであるということ。
火を使う行事であるのに、その根回しや準備がされていないこと。

おひさまの家を訪問した先生に、太輔たちの班担当の職員さんは
2つめの問題は、自分も働きかけて、なんとかするから
送る会でのランタン飛ばしを承諾してほしいと、お願いします。
『誰かから何かを奪ってはいけないなんて、そんなこと
この子たちはわかっています。きっと、私たちよりも』と。

親を、友だちを、夢までも奪われた子どもたち。
4人は、大好きな佐緒里お姉ちゃんのために、そして、自分自身のために
どうしてもランタンを飛ばしたいと思った。
その願いは、おとなたちのあたたかい気持ちもあって、叶う事になるのです。

材料が足りなくて、代用の材料で作られたランタンの使用は認められず
在校生ひとりに1つのランタンを用意する事ができませんでした。
麻利は、大好きなお友だちに、自分が作ったランタンを渡しますが
お友だちは、麻利と仲良くしていくことはできないといいます。
小さな町。クラス替えもない。逃げることができない……
口の中が、ザラザラするのを禁じ得ませんでした。

淳也と麻利は、転校することにします。
淳也をクラスでのけ者にした子も、麻利をいじめていた子も
何があっても変わらない。
他人を変えることはできない。でも、自分は変われる。
変わるために逃げるという淳也に、すごく共感しました。

なぜなら、わたしもいじめられっ子だったからです。
このままではイヤだ。変わりたい。
そう願っても、変われなくて、悲しい思いも何度もしたからです。

友だちや、先生、家族からだって逃げたっていい。
逃げたからって、その道が細く
なるわけじゃない。
逃げた先にも、同じだけ希望が用意されていうはずだもの。

佐緒里と待ち合わせした公園に、太輔たち4人は急ぎました。
ジャングル公園。そこで、5人は、願い飛ばしを見ます。
佐緒里は、アイドルのアリサに憧れていました。
大学に行って、アリサのように生きたい。
その夢は絶たれてしまったけど、太輔たちは、佐緒里に、
アリサの映画のワンシーンをプレゼントすることにしたのです。
そのシーンが、この本の表紙です。
蛍の光のような、ランタンの灯り。綺麗でした。悲しかった。
でも、そこには、あたたかさもあった。

佐緒里、淳也、美保子、麻利は、おひさまの家を出て行きます。
太輔の物語は、このラストから始まるのかもしれません。
成長した太輔に会いたいような、いや
もう会っているかもしれません。

この物語は、太輔の佐緒里への初恋の物語でもありました。
『私たちは、絶対、また私たちみたいな人に会える』

子どもたちは、逃げたくても、逃げることが難しいとも思います。
子どもたちからのサインを見逃さないおとなでありたい。
そして。おとなになったわたしたちも、逃げても、やめてもいい。
後半は、たくさん泣いてしまいました。
月並みですが、ココロが洗われた気がしました。
今の自分に迷ったら、この本の頁を開いてみたらいかがでしょうか。

世界地図の下書き
集英社
朝井 リョウ

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