おまえは誰だ?自分に問いかけた あゝ荒野 11.12.1 夜 

みんな「自分が誰なのか」探してる。
どうしたいのか。どこへ行きたいのか。何をしたいのか。
この人が出てるから…と言う理由からだけではなく
「どうしても見たい」
久しぶりに、そう思った舞台…
12月2日に千穐楽を迎えた「あゝ荒野」前楽12.1夜公演を観てきました。

劇場に入ると、舞台上に役者さんたちが…
ウォーミングアップ中なのか、もう芝居が始まっているのか?
1分ごとに開演までの時間がアナウンスされていましたが
わたしが入ったのは17分位前でしたが、何分からされてたのかは不明。

1度きりの観劇。席は上手サイドブロックのかなり前方の席でした。
少し舞台を見上げなければならないし、下手は見えにくいでしょう。
ここに来られた事がかなり幸運なことなので、楽しもうと思いました。

荷物かかえて通路を歩き、舞台に上がっていく人と席に着く人と。
誰が出演者で、誰がお客なのか…よくわからなくて。
オーディエンスも、出演者のひとりのような錯覚に陥っていきます。

開演時間になっても、セットはなにもなく…
出演者たちのダンス?体を使ってのパフォーマンスが繰り広げられるのですが
見間違いかもしれないけど、明らかに他のひとと違う動きの人がいました。
置いて行かれてる?間違ってる?はみ出してる?

気づけば、わたしたち観客は、新宿の夜の街に迷い込んでいました。
客引きをする娼婦たち。
夜の街に何かを求めて来たのか、迷い込んでしまったのか…
場違いの青年・建二(バリカン)が、ひとりの娼婦につかまりホテルへ。
前払いさせられるも、建二は遊びたくない…と言うのです。
床屋の息子で、どもりの建二ですが、娼婦は話をしようと言います。

同じ部屋に、松本潤さん演じる新次が少女を連れて入ってきます。
えぇ~ありえへんけど、フロントが機能してないようなホテルなんだろか
松本さんは、赤系アロハに白の上下。あきらかにちんぴら。
刑務所から出てきたばかり…のようですね。

建二と娼婦は、箪笥に身を隠すのですが
えぇ~先客じゃん、きみたちが…と言いたくなったけど、置いといて。
鍛え上げて、身体をしぼったと言う噂(笑)の松本さんですが
背中がきれいでしたね。どこにも無駄がない。ボクサー仕様の身体ですね。

事が終わって、新次は寝てしまうのですが
相手のことを思っていない行為だったのでしょうか、少女はご不満のよう。
わたしを探しなさい(追いかけたくなるだったかな?)と、
新次の財布を盗んで逃げていくのでした。
財布をとられた事に気づいて、怒りまくる新次も部屋を後にします。

ふたりがいなくなった事を確認して、箪笥から出てくる建二ですが
一緒に隠れていた娼婦が死んでいる…と言う。
白装束で被昇天する姿を見せてはくれましたが、なにゆえの突然死?

新次たちが帰った後、でっぷり太ったタンポポスーパー社長と
あやしげな大学生ふたりの3人が、同じ部屋に入ってきます。
大学生ふたりは、早稲田大学の自殺研究会というサークルの学生で
スーパー社長に自殺を進めている様子?
モラルのかけらもない女子学生と、死に憧れる性根の腐った男子学生。

この3人が、娼婦の死体を発見するのですが、血を流して死んでる?
あんな狭い箪笥の中で、物音もほとんどたてずに死に至ったんですよね。
建二が殺したのか、自殺はありえないとして、突然死したのか…
人が死んだのに、あまりにもさらりと流されてる事に違和感を感じました。

財布をとられた新次は、新宿の街で、ボクシングトレーナーだと言う
片目の男に拾われて、ボクサーを目指すことになります。
有名になって、大金をつかみたい。
自信家の新次は、パンチが軽いと先輩に笑われながらも
その負けん気の強さとがむしゃらさで、デビュー戦から連勝を続けるのです。

時を同じくして、建二も同じジムで、ボクサーを目指すことになり
新次と兄弟のように、切磋琢磨していくことになるのです。
新次が命名したリングネームがバリカン。床屋の息子だから…(笑)

新次と一緒にランニングしたり、トレーニングしたり。
バリカンにとっては、生涯で1番幸せな時間だったのではないでしょうか。
どもりの彼は、対人恐怖症なのかな、人と話そうとすると、どもってしまうけど
ひとりごとだったら、すらすらと話せるのです。
重いパンチを持っているのに、弱い相手には勝てず、
強い相手は、1ラウンドKOと言う訳のわからない戦績のバリカン。。。

時代の背景として、いろんな人たちが描かれていました。
生きる事に希望を見出せず、甘美な終わりに憧れる大学生たち。
自殺研究会の標的になりかけたスーパーの社長は、自殺ではなく
奥さんへのDVに目覚めてしまったり。
昔の情婦に小指をねだられ、餞別に置いてきたという男…とか
その男の相手が、実は母親。。。
法律的には禁じられている売春を仕事にせざるを得ない娼婦たち。

新宿の2つの店を、同じ舞台上に設置して、
ライティングで、交互に物語を動かすと言う手法も、新しくはないけれど
おもしろかったと思います。
全てを知っているのは、観客のみという優越感?

寺山修司さんの短歌をスクリーンの映しだしたり
出演者が声に出して詠んだりと言うのも、効果的でしたよね。

トレーニング中のバリカンに、警察官ふたりが声をかけ
娼婦の死について、なにか知らないか…と聞いてきます。
どもってしまって答えられないバリカン。
話しかけておきながら「どうせ娼婦ですから」ときちんと話を聞こうともせずに
立ち去る警察官たち。
取り残される。たったひとり…目の前に広がる荒野ってそういうこと???

娼婦もバリカンを残して、ひとり行って(逝って)しまいましたよね。
殺されたか、事故か急な発病だったのか…
明かされてはいませんが、実は、どっちでも良かったのかもしれないね。

バリカンは、ジムのオーナーに別のジムに移籍したいと申し出ます。
その理由は、新次と闘いたいから…
バリカンにとって、たったひとりの友だちで、身内でもある新次と。
どもってしまって、言葉でのコミュニケーションも取れず
新次が財布を盗った少女としたように、体と体での対話もできない。
彼にできる事は、闘うことしか、拳をあわせることしかない。
そっか…彼には勝敗はどっちでもいいんだ。
強い相手は怖くて、対話できないから、倒しちゃうだけで。

新次は、手癖の悪い少女を見つけだして、良い仲になります。
母を殺した…との告白は、ほんとうなのか嘘なのか…
娼婦が他殺かそうじゃないか…と同じくらい、物語の展開には
どちらでもイイことのように思えてしまうから、不思議。

普通の家庭を持って、子どもをたくさん作って。
あたりまえの中にある、真実の幸せをつかんだ者が、
チャンピオンに上り詰められるのか?ハングリーじゃなくなっても?
外野はささやきますが、新次は耳を貸そうとはしませんでした。
少なくとも、わたしには、そう見えた。

「おまえは誰だ?」
いつの時代も、誰もが自問自答を続けている事じゃないかな。
自分が誰なのか、どこから来て、どこへ行くのか…
「俺は俺だ」
新次は、強いと思いました。

新次とバリカンの試合当日。
大好きな友だちである新次と、拳を出し合う事で対話することを
バリカンは楽しんでいたように見えました。
もっと他のやり方はなかったのか…と思わなくもなかったけど
うたれることを楽しんでいたようにも見えました。
それをわかっていたのか新次も容赦なく、パンチを繰り出します。

試合の間、バリカンのひとりごと(心の声)がナレーションのように流れます。
殴られた数を数えてるの。
意識がもうろうとしてきて、子どもの頃の事が走馬灯のように思い出される。
お祭りの時に、置き去りにされたこと…とか。
みんなに置いて行かれること。
それは、時代に…とも置き換えられるかな~と思いました。

試合の時間と言うのが20分、もっとあったのかな。
汗をかいて、腹筋が輝き出した時の松本さんは、ほんとうにキレイでした。

バリカンは、リングに沈みます。
倒れたバリカンを抱きかかえる新次は、どんな気持ちだったんだろう。
今まで1番、誰よりも1番熱く語り合った男が、逝こうとしている。
大切な友に置いて行かれる…という哀しみと恐怖に包まれていたのかな。
その友だちが、2度と「おいていかないで」と悲しむ事がなくなったことを
喜んでもいたのかな。

建二の死亡診断書が読み上げられます。
死に至る原因となった場所は、後楽園ホールでの平成23年11月30日の
ボクシングの試合でうけた、脳への損傷。
亡くなったのは12月1日。
つまり、観劇している今、今日のことになっているのです。

ふたりが生きたのは、明らかに昭和の時代だったのに
死亡診断書の日付は、今日…
変わらないんだよって言いたかったのかな。
自分自身と対話を続ける事は苦しい事だけど、目を背けてはいけない。
俺は俺だ。自分は自分、他の誰でもない。

原作の寺山修司氏は「ぼくの職業は寺山修司です」と言っていたそうですね。
新次は、彼がこうありたいと願った一側面であったのかもしれません。
舞台に立つ松本潤さんは、久しぶりに拝見しましたが
背中で語れる役者さんでしたね。

1度だけ観劇する事ができた『あゝ荒野』
書ききれていない事もいっぱいありますが、
てるひが覚えておきたいと思う事は、書き残せた…かな。
こんなてるひの覚書におつきあいくださって、どうもありがとうございました。

また、蜷川幸雄さんの舞台が見たいなぁ。
今度こそ(?)さいたまで。

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