言葉が刃となり、全てを切り裂く 湊かなえ『告白』

告白。真実を告げると、その相手にこの上もない幸せをもたらす場合と
地獄へと突き落とす場合とがある。
この物語に登場するAとB。少年Aと少年Bは、聖職者であるこのひとの告白を聞いて、ひとりは天国へ、もうひとりは地獄へと突き落とされた。
第29回小説推理新人賞を受賞した「聖職者」に、視点の違う短編を加え、出版した、湊氏のはじめての本。誰にもすすめたくないような、でも、手に取ってほしいよな、そんな1冊です。ネタばれを含みますが、よかったらぜひ。
『告白』湊 かなえ 双葉社 2008。

聖職者とは・・・宗教上重要な地位に就いているひと。
または、比喩的には、一部の清廉潔白な職業に従事しているひとを指す。
神に仕える。または、神がになうべき仕事を任された者。
ゆえに。自分の力を誤解、過信して、道を誤り、たやすく悪魔へと変貌もする。

第1章「聖職者」は、比喩的意味の教職に従事していた女性教師の告白です。
シングルマザーとして育ててきた娘が、学校のプールに落ちて死んだ。
事故死とされたその事件が、実は、殺人であり、犯人は、彼女が担任していた
クラスの生徒ふたりであることを、クラスの生徒たちに告げるのです。
AとBと名前を伏せているものの、描きこまれた別のシーンから、読者であるわたしたちにも、クラスメートたちにもわかるしかけになっています。

電気屋の息子で、AVのモザイクを取りさる技術を持つA。
ファスナーを開けると、電流が流れるというサイフを作り出します。
部活にもなじめず、成績も伸び悩み、ゲームセンターでの補導歴有のB。
クレーマーの母を持つBは、教師親子とショッピングセンターで会っていた。
なんの接点もないAとBが、なぜ…教師の幼い娘を殺したのか?

見えてこない殺人動機。さまざまな矛盾
女性教師の告白が真実だとするなら、おさえることができない疑問。
結婚が決まっていた相手との間に、子どもが授かった時
その相手が不治の病だとして、結婚を白紙に戻したりするだろうか?
相手を看取りたいと思わなかったのか…看取られたいとは?

この女性教師が尊敬していたらしい世直しやんちゃ先生。
どっかで聞いたような?10代の頃にやんちゃしていた彼は教師になった。
このやんちゃ先生のこと、てるひの脳は拒否反応を示した。

女性教師は、殺人者たちを警察につきだしはしませんでした。
死に至る病のウィルスを、AとBの牛乳に混入させたというのです。
HIV感染者で、余命いくばくもないと宣告されたひとの血液を。
ふたりは、それとは気付かずに牛乳を飲みほしました。
どのくらいの量を入れたのか?そんなことで、発病するのか?
ほんとうにそんな血液を入手することができたのか・・・
たくさんの疑問。
これは、殺人ですよね。もしもふたりが感染せず、未遂に終わったとしても。
でも。この教師がつかまったという記述は、ありません。
ただ一身上の都合で、退職をしただけ。

このざらっとした後味が悪く、疑問が残る1章の結末。
いえ。応募作は、ここで終っていた?
連作にするために、書き直されたかもしれませんが…

殺人事件をおこした犯人たちは、女性教師の告白を聞くまでは、
ふつうに学校に来ていました。
告白を聞いて、ひとりは、新学期である4月から登校拒否になります。
でも、もうひとりは学校に通い続け、いじめの標的となっていくのです。
第2章のタイトルが「殉教者」
誰が何に殉ずるのか・・・AかBか?そもそもなにに殉ずるのか?
第2章の視点キャラである、クラス委員長の美月は、殺人者としていじめを受けていたAをせめたてることを強要されます。いやいやながらに従ってしまう彼女の目に、攻撃を受け入れるAの姿は、聖職者のようだと映るのです。
ナザレのイエスのよーだということ?
彼女は、ひとを痛めつけることに興奮を覚え、そのことに慄然とし
そして、Aに共感をしてしまうのです。

登校拒否を続けるBは、聖職者(笑)に無意識のうちにリモートコントロールされた
新しい熱血担任教師に、追いつめらていきます。
そして、Bは、自分が1番大切にしていたものを自分の手で破壊します。
Bは子どもでした。
そんな子どもに育て上げた母親も、どこか狂っていた。
もちろん、Bの元担任の女性教師も、狂った母親でした。
この物語に登場する母性は、みんな歪んでる。これは、何を意味するのか…

Aは、なぜ1日も休まず、登校し続けたか…
彼を捨てて、離婚をして家を出た母親が、かわいそうな自分のことを迎えに来てくれると信じていただからです。大事件を起こせば、きっと…と。
HIVに感染!そんな事になれば、ぜったいに来てくれる…と。
読者であるわたしは、一瞬、Aに騙されかけました。
Aの中に潔い聖職者の顔を見たような気さえしてしまうのです。

でも。Aは、自分を捨てた母親の関心をひく材料とするために、
担任の5歳の娘の命を奪ってしまおうと考えるような子どもでした。
でも。彼の作った殺人マシーンは、幼子の命を奪う程の威力はなく、
目撃者に選んだBの扱いに失敗した為に、殺人者の地位を奪われてしまう。
殺人を犯したBと、殺せなかったA。
でも、Aがいなければ、Bが殺人に手を染めることもなかった。

寄り添うかに見えたAと美月でしたが、Aには、母親を、母親との関係を悪く言われることは、絶対に許せないことでした。
美月は、危険な薬品集めをしていました。
中学生が集められる薬品が、どの程度のものか疑問ではありますが
Aは、その薬品を使って爆弾を作ります。
その爆弾で、学校を爆破すれば、今度こそ、お母さんは・・・
犯罪者の祈りは天に届くのか?地に落ちていくだけなのか?

Aの母親は、再婚していました。
自分の全てであった母をも失ったAに追い打ちをかけたのは、元担任でした。
元担任は、AとBの牛乳にHIVウィルスを仕込んではいなかった。
そのことは、薬品フェチの美月によって、証明されていました。
では、なぜ「混入した」と告白をしたのか?
この疑問が、ずっとわたしにまとわりついていました。
そして。衝撃のラストへ。

読み進めていくうちに、少しずつ明かされていく謎と生まれる疑惑。
引き込まれて読みました。
愛のない時代の悲しさ?少年たちの心の闇を救えるおとなはいなかったのか?
元担任が、彼こそが聖職者だった…と最後に述べたやんちゃ先生こそが
諸悪の根源だったと思ってしまったのは、わたしだけだろうか。

この物語が世に放たれた意味を考えます。答えはないかもしれないけど
久しぶりにレビューを書こうと思った本、湊氏の次回作に期待したいと思います。

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