きれいで…壊れそうなものばかり『リリイの籠』豊島ミホ

きれいなものは壊れやすい。キラキラ輝く汗や涙、友情も友だちも。
掌で受け取ろうとしても、指の間からこぼれ落ちてく。
大切に受け止めて、一時はしゃいだ後…わざと壊したりもした。
ひとは…変わらないものには心惹かれたりはしない。
だから。誰かを好きになるし、夢を集めようと躍起になる。
人との距離を図りながら、時に距離の取り方に失敗して、なにかを失い
集めたきれいと夢を編んだり、ほどいたりしながら、おとなになっていくんだね。
『リリイの籠』 豊島ミホ 光文社 2007

仙台の女子高を舞台にした短編集。7作品が収められていて。
私立の女子高に通う女子高生、教員、卒業生。作品ごとに主人公が入れ替わり、同性との距離を描いています。
本の装丁がとてもきれいで、リリイ(大きく女性全般を指すのかな?)の籠から
ビーズや花、貝殻、レース、小鳥…集めたくなる綺麗が、零れ落ちています。
綺麗を編みこんでも、必ずしも綺麗ななにかに仕上がる訳じゃない。。。
女同士…裏に流れるどろっとした感情や薔薇の棘も、リリィの籠にはつまってる。
いつか味わったことのある心のきしみとか喪失、原石のままの夢、希望の化石。
あなたが女という性ならば、きっと見つかると思う。

「銀杏泥棒は金色」
嫌いなものはたくさんあるけれど、好きなものは一つだけという春の物語。
好きなものは絵を描くこと。でも、好きが他にないから、
好きで絵を描いてはいるけど、好きなものを描いたことがない。
好きだという思い、愛着から、画力以上ににじみ出てくるものがある。
それを探して描けと言われて、春が見つけたモデルは銀杏泥棒の少女…
ほしいものを手に入れようと金色に輝いていた加菜。
わかるな…泥棒してまで(笑)手に入れたいものがあるひとって、輝いてるよね。
春は輝きを見つけたけれど、愛着の持ち方がわからなくて…
加菜から「(描くンだったら)膝小僧のほくろを描くくらい、わたしに執着してよ」
そう言われて、はっとする。読み手のわたしも、はっとした。
わたしも書く事が好きだった。でも、好きな事を書いてるか…と言われると
素直には首を縦にふれない。好きを書く。描く。
春は、銀杏を盗ろうとしてたあの日の加菜を描く事にする。それはラブレター。
…だね。創作って、モデルやモチーフへのラブレターなのかもしれないね。

「ポニーテール・ドリーム」
化学のえみ先生は、ださいスカートをはいて、髪型も時代遅れのポニーテール。
高校時代、えみ先生が憧れたドラマの主人公がしてた髪型…
高校時代、流行のルーズが似合わなくて、自分を嫌いになりそうになった。
いつか髪が伸びて、テールが結えるようになったら、きれいになってるはず・・・
自分を嫌いになる代わりに、希望を先送りしたのだ。
希望の先送り。わかるな。わたしも、かわいい女子高生じゃなかったから。
えみ先生は、プチ失恋して、髪を切るのですが、それがすっごく似合ってて。
この作品は読後感が、すっごく良かったな。

「忘れないでね」
転校ばかりしていて、みんなの輪に入れなかった美奈は、
いつも輪の外にいるコとばかり、仲良くしていました。
もう転校しなくてもいい立場になっても、中学時代不登校だった真琴と
なんとなく仲良くするようになる。
唯一の友だち、救世主と思われたいから。なんかさみしい。。。
一緒の大学に行こうと言われ、偏差値の低い真琴から離れられる
そう思ったのに、美奈が落ちて、真琴だけ合格…というオチつきの物語。
やるせない気分になったな。

「ながれるひめ」
女子高で美術教師をしている、できのイイ姉と、何事も中途半端の妹。
姉の小百合が勤める高校に、妹の藍が教育実習にやってくる。
高校受験の時に言われた「あんたなんか、落ちればいいのに」
この姉の言葉が、ずっと胸にしこってたけど、ボーイフレンドもいた妹への
嫉妬から出た言葉だった・・・と打ち明けられる。
姉妹に光が差した?
幼い頃、妹をお姫様に見立てて、絵に描いていてた姉。
ながれるひめもそのひとりで、ながれるひめ、オフィーリアは、
父をハムレットに殺されて、正気を失い、溺れ死んだ…あるいは自死したと言われていますよね。
この作品も、読後感が良かったかな。

「いちごとくま」
女の子同士のどろっとした思惑が、すっごくつまった作品でした。
かわいいがゆえに、友だちの輪に入れない里加の親友、くまっち。
苗字からついたあだ名だけど、風貌もくまっちそのものの愛されるキャラ。
くまっちと一緒にいると、みんながやさしい。
でも。その空気も、くまっちにカレができて、変わってしまいます。
みんなに祝福されるくまっち。でも、それは、くまっちのカレがどんな人か…
見世物的な興味からくる、祝福だったのです。
くまっちのカレは高3で、里加のカレは同級生(高1)。
おとなのカレができたことに嫉妬した里加は、くまっちに言ってしまいます。
「スタイルが良くて、かわいかったら、こんなふうに応援されたりしない。
くまっちだから、安心して応援されてるんだよ。ばかにされてるんだって…」
発してしまった取り返しのつかない一言。
そういう一言って。みんな、1度は言ってしまったことがありますよね。
わかりすぎるだけに、いたすぎるお話でした。

「やさしい人」
高校を卒業して10年。同窓会をしようと言う話になって
幹事を押し付けられた歩は、気に食わない存在だった木田芙見と
一緒に母校を訪ねることになります。
芙見から、ほんとうは、歩と仲良くなりたかったと打ち明けられますが
10年を巻き戻す事はできないんですよね。
その時にやろうと思ったことは、その時にやらなきゃダメなんだ。
後で・・・の後でなんて、来るかどうかわかりゃしないんだ。痛感させられました。
なんともむなしさが残る作品でした。

「ゆうちゃんはレズ」
レズと言えるかどうかわからないけど、てるひも中学時代(共学だけど)
憧れてた先輩がいたな。もっと仲良くなりたい。お話したい。そんな気持ち。
高校時代の男女のお付き合いも、そんな感じが多かったりしません?
ゆうちゃんは、明子先輩に告って。一緒に遊んだり、勉強を見てもらうような
関係になります。ゆうちゃんは、先輩に触れたい。そんな気持ちを持ってたけど
明子には、好きとか…そんな気持ちはなかったけど
「ゆうちゃんが私を好きな気持ち」を好きで好きでしょうがなくなってしまった
だけ…
誰かが誰かを好きって気持ちにふれると、幸せな気分になりますよね。
たとえば…同じアイドルを好きだったりする気持ちも、そうでしょ?
違う…か(笑)
明子の場合。好きのベクトルが自分に向いてるンだからね…
ゆうちゃんの気持ちがイタイ…好きなひとが、自分の思いを好きなだけなんて。
嫌ってくれた方がましじゃない?
なんとコメントしていいか…すごく迷う作品でした。

今…ゆうちゃんやくまっちと同じ年代の人よりも…
少しおとなになった女子に読んでもらいたい作品ですね。
リリイの籠

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