言葉とは魂だから『鹿男あをによし』万城目学

6月。お台場でライブが行われていた頃、この本の事を知りました。
片思い中(笑)のBlogさんに紹介されていたのですが、
鹿!サンカク???
鹿男=鹿の王子にサンカクとくれば(笑)
そして。言霊。言葉に魂は宿る。歌にこめられるメッセージ。
不思議な符合にときめいた。
「鹿男あをによし」The fantastic Deer-Man 万城目学 幻冬舎 2007

大学の研究室に席を置いていた主人公は、研究室内のごたごたから、二学期の間だけ、奈良の女子高に、非常勤講師として赴任することになります。
着任した日。担任することになったクラスの、堀田イトが遅刻してきてます。
理由を尋ねると、マイシカを駅前に止めたため、駐禁を切られたからだと言うのです。奈良人は鹿に乗るンだと言い張り、遅刻を取り消してほしいと訴えました。
奈良の人は鹿に乗る?いや…あんな細っこい体に乗れんだろ?
この疑問を同僚に投げかけたがゆえ、堀田イトの遅刻は、学年主任に知られてしまい、クラスの生徒たちから、ちくちくいじめられることになってしまう”おれ”

安物の下着を買ったことや、鹿せんべいを味見してみたことまで見られていて
クラスの黒板に書き立てられます。疑心暗鬼に陥る”おれ”。
そんな時に、鹿に声をかけられるのです。
「鹿せんべい、そんなにうまいか」うまいの、ね、うまい?
ケリーさまのライブで、奈良に行ったら、鹿せんべい、食べてみようか…
鹿は、神無月だ。出番だよ、先生・・・そうも言ったのでした。

出番?
鹿が言うには、おれは”目”の運び番に選ばれたというのです。
60年ごとに、目は、鹿から鼠、鼠から狐、狐から鹿へと渡される宝。
”目”を使って、なまずを押さえ込む儀式を行うンだそうで。
京都・伏見稲荷の狐から、シカるべき時にシカるべき場所で、目は渡される
狐の使い番の人間の女性から、渡された”目”を持ってくるのが役目。
この大切な宝は、ひとの言葉で「サンカク…」と呼ばれているらしいのです。
サンカクですよ、サンカク!クーさんのことかい?(笑)

主人公のおれ(なんと、名前が出てこなくて、わからないの)の実家は、
茨城県の鹿島神宮のお膝元。
信心深い母から「お札」だから、身に着けていろと言われたものは
白くて、9を太らせたようなカタチ?・・・勾玉の事ですよね?
この親にしてこの子あり?母の言いつけを守り、身に着けちゃう”おれ”。

そんなある日。生徒のお母さん方に絶大な人気のある教頭先生に
ゴルフの打ちっぱなしに誘われて、剣道部の顧問を依頼されます。
”おれ”が赴任した女子高には、京都と大阪に姉妹校があり、
毎年、神無月に、3高対抗の交流戦を行っていました。
その名も大和杯。
ホスト高は持ち回り制で、今年は奈良の番なのだそう。
運動部毎に、大和杯なる優勝カップがあったり、古き良き香りがしますよね。

大和杯の前に3校合同の懇親会が行われます。
”おれ”は、京都の剣道部顧問の長岡先生が、狐の使い番だと確信するも、
渡されたものは・・・サンカクではなく、紙でした。
”目”を受け取りにきた鹿は、鼠の使い番に奪われたンだとまくしたて、
”おれ”は、運び番失格の烙印の”印”をつけられてしまいます。
その日から、顔が鹿化していくンですけど、他人には気づかれないみたいで。

剣道部の大和杯だけが、杯ではなく、三角のプレートだとわかります。
それこそがサンカク?しかも、大和杯は、大阪の剣道部顧問が、修理のために
大阪に持ち帰った事がわかります。彼が鼠の使い番なのか?
鹿になってしまわない為には、サンカクを奪回しなければなりません。
その為には、大和杯の優勝しかない!
優勝どころか…奈良の剣道部員は3人しかいない。
この”おれ”の窮地を救ってくれたのは、他ならぬ、堀田イトでした。

家が剣道場を営んでると言う堀田イトは、ものすごい強さで大阪を撃ち
死闘の末、59連勝中の京都にも勝ち、大和杯サンカクを手に入れるのですが
それは。。。

堀田イトが剣道部に入部して、”おれ”を助けようとしたのには訳がありました。
彼女こそが、鹿の使い番で、60年ごとの鎮めの儀式が行われた後は
鼠に渡すまで、”目”を守る役割の担う人物だったのです。
”おれ”と堀田イトが手にしたサンカク(大和杯)は”目”ではありませんでした。
イトもまた、印をつけられ、鹿化が始まっていました。
その姿は、デジタル映像には映り込んでしまう。。。
その事に気がついたふたりは、狐の使い番が、案の定、長岡先生で
真実の鼠の使い番の正体もつきとめたのでした。

人間という生き物は、文字にして残さないと、何もかも忘れてしまう。
本当に大事なことは、文字にしてはいけない。言葉とは魂だからだ。
この鹿の言葉は、胸にささりました。
いつか…どこか(笑)で、同じようなフレーズを聞いた気がする。
文字にした時に、言葉は魂を失って、勝手な解釈をされ、流される。
言霊。言葉に魂が宿ると言うことさえも、人は忘れてしまった…
鹿は嘆くのでした。

サンカクとは、三角縁神獣鏡。
卑弥呼が、なまずを押さえ、鎮めるために作った鏡でした。
その役目を鹿、狐、鼠に託して、この世を去った卑弥呼。
彼女の願いを聞き、なまずを暴れさせない為、生まれ変わり続ける3者。
神無月の満月の夜。鎮めの儀式は執り行われ、日本は守られます。

鼠も、決して、なまずを暴れさせたい訳じゃなく、鹿と遊びたかっただけで。
サンカクを我が物にしたいと願った人間の欲望には、思いが至らなかったみたいですね。くわばらです。
鹿は”おれ”の願いを一つだけ聞いてやると言います。
”おれ”は、堀田イトを人間に戻してやってほしいと願うのでした。
じゃ。”おれ”は、一生、鹿のままなの? それも良かったりして。

この物語の登場人物たちには、たとえば、ダンディーな教頭にはリチャード。
みんなの憧れの長岡先生には、マドンナというようなあだ名があったり、
赴任してきた新任教師の”おれ”にも「坊ちゃん」を彷彿とさせられます。
そして。ファンタジーの常道。来たり、去るの法則。
可憐で小柄な堀田イトの女剣士ぶりにも、惚れ惚れしました。
”おれ”の勘違いもおもしろかったし。
鎮めの場所(平城京跡)にかけつけるイトが、鹿に乗ってきたことも。

奈良が好き、ファンタジーが好き、鹿の王子が好き。
そんな方にぜひ、読んでいただきたい1冊です。

鹿男あをによし

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