自分しか愛せなくて、時を止めた『魔女の死んだ家』

子どもは昨日のことを語る
男たちはそれぞれ過ぎた記憶をたどる
少女はなにも覚えていないまま 廃屋へ足を踏み入れる

3つの違う視点から、密室で殺された魔女の死を探るミステリーです。
魔女か天使か…それとも稀代の悪女?娼婦なのか
古き時代の退廃的なにおいのする物語は、
かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランドの中の1冊。
「魔女の死んだ家」 篠田真由美 講談社 2003

このミステリーは三つの章に分かれていて、子ども、男たち、少女が
それぞれの章で、視点キャラとなっています。
冒頭の3行は、それぞれの章についていたフレーズを短く載せたものです。

子ども。被害者、魔女と呼ばれる女性の子どもの目に映っていた魔女は、
それはそれは美しく、吸い込まれそうな瞳、白い肌の女性でした。
いつも黒い着物やドレスを、着崩してまとい、妖艶な魅力をふりまいていた。
子どもの”あたし”には、おとうさまはいませんでした。
時代に取り残されたような洋館で、ばあやとねえやと暮らしていました。

おかあさまには、とりまきの男性がいました。
すうはい者?パトロンなのか…ただちやほやされていただけなのか
そのあたりは判然としません。
子どもは、小学校に行く年齢に達していましたが、この邸から出ることなく
育てられていました。
子どもは、おかあさまとふたりだけで、お茶したりしながら過ごすのが好きでした。
おかあさまを取り上げる、すうはい者たちが大嫌いでしたし、
ご挨拶させられる時に、不思議の国のアリスのような格好をさせられるのが
嫌で嫌でたまりませんでした。

男は大嫌い。でも、みーちゃん(子ども)がほしかった。
そのために、元婚約者の力を借りた。子どもができたら、破談にした?
元婚約者も、魔女のサロンに通っているというおかしな話です。
みーちゃんに、おとうさまの元に行きたいか?おかあさまは聞きます。
ずっとここでおかあさまと暮らしたい。おとうさまなんていらない。
おかあさまは、なにがあっても、自分がいなくなっても、お前をどこへもやらない。
わたしの魂が守るから。
御伽噺を聞かせるように、おかあさまは語ったのでした。

そのおかあさまが、密室で、こめかみを銃で打ち抜かれて殺されました。
右手と袖は、暖炉の火に焼かれていました。
同じ部屋には、その元婚約者が銃を握って倒れていて
容疑者としてつかまり、自白したために、裁判で傷害致死で有罪判決を受ける。
みーちゃんは、自分の手に銃の感触が残っていたので、
自分がおかあさまを手にかけたのではないか…と、思い悩むのです。

犯人は?おかあさまの命を奪った銃の玉も見つからない。
元婚約者が、あやまって殺してしまったという事になってるこの事件を
誰かが調べるという形で、2章は進んでいきます。
インタビュアーは、とりまきだった男性や庭師の老人に話を聞きます。

判決通り、元婚約者の橘が殺したんだという者。
1章では、子ども目線だったので、名前がわからなかった魔女の名前も
小鷹狩都夜子とわかりますが、彼女の正体は浮かびあがりません。
崇拝者たちも、彼女がほんとうは天使だった…と思ってるものもあれば
高級娼婦だというものもいる。

殺されたのではなく、元婚約者の橘に殺させたという者もいました。
都夜子は、容色が衰えるのが許せなかった。
永遠に記憶の中で美しく輝き続けるために、殺させたのだと。
橘が自らの意思で、殺したという人もいました。
都夜子に破談にされた後、橘は家庭を持ち、女の子もいました。
その家庭をめちゃくちゃにされないために、殺した…と。

庭師は、お嬢さまは自分が死ぬ時を知っていたと言います。
裏返せば、その時がきたから、自らの命を断ったということでしょうか。

都夜子の死から10年後。
少女は記憶を失って、病院に入院をしていました。
少女のおかあさんは、もうこの世にいませんでした。
おとうさんは遠い所に行ってしまって、ひとりぼっちでした。

従兄弟だと名乗る青年が、少女の身元引受人になってくれました。
病院から出られる!
次の日。従兄弟のおにいさまに連れられて、
かつて魔女が住んでいたあの家にやってきます。
少女は、自分の名前が、ミズホであると知らされます。
ミズホ。みーちゃん?
青年の名前は、ジュンヤ。10年前まで、この家に住んでいたと告げました。

10年前。魔女の館には、少女がひとりいました。魔女の娘です。
あとは、ばあやとねえやと庭師。おとなばかりのはず
ミズホ(瑞穂)とよく似ているという、ジュンヤ(純也)とは誰なのか・・・
おかあさま、都夜子を殺したのは誰なのか?
魔女の死んだ館に、第2章で昔語りをした男たちも集まっていました。

明かされる真実にはっとします。
でも。なぜ魔女は死ななければならなかったのか
わたしには、よくわかりませんでした。

子どもは、母に「父親なんかいらない。この家で、ずっと暮らしたい」
そう言いましたよね。
子どもの父親は、みーちゃんを自分の元で育てたいと思っていた。
そのために、ねえやから話をきいたりしていました。
橘は、罪に問われ、刑務所に入れられます。
魔女が死んだ日、ねえやも毒を飲まされて死にました。
みーちゃんを、この家から連れ出そうとするものは、みんないなくなったのです。
誰が、そうしむけたの・・・か

おにいさま、ジュンヤは、ミズホにここで一緒に住もうと言います。
「ぼくたちはきっと幸せになる」

魔女は思い出の中で、永遠に舞い続けます。
決して年をとることも、子どもを誰かに奪われる事に思い悩むことも
もうないのだから。

読み終わって。なんとも不思議な気分になった1冊でした。
誰が魔女を殺したのかも、ジュンヤが誰であっても
ある意味、そんな事はどうでもイイ気もしてくる。
ミステリーとしてうんぬんではなく、漂う不思議な退廃感というのかな
桜が見せてくれた幻想の世界。
そんな篠田ワールド。くせになるかもしれません。

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  • 篠田真由美さん著 『魔女の死んだ家』を読んだよ!!

    Excerpt: 「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」の中の一冊です。 3章に分かれています。 一番初めの「子どもは昨日のことを語る 母の生と死、そしてほかのことも」の章では この物語の.. Weblog: のんびり前進じたばた生活 racked: 2007-05-22 19:36